東大生の一割しか本当の思考力を身につけられていない|どうやら日本人はAIに太刀打ちできないようだ

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脳科学者である茂木健一郎氏のインタビュー記事がありました。
興味深いものなので、学生の皆さんも以下に抜粋したものを読んでみてください。
※引用文中の改行・太字化は筆者による。

「頭の良さ」の基準が変わってきた

2020年度からセンター試験が廃止され、新しい「大学入学共通テスト」が実施されます。従来型のセンター試験は「記憶力や知識量」を問うものでした。新しいテストでは、「記憶力や知識量」に加えて、「思考力・判断力・表現力」も問われるようになります。
「記憶力や知識量」は、これまでの受験用のテクニックを駆使すれば発揮できます。

それに対して、「思考力・判断力・表現力」は、「地頭の良さ」が試されます。地頭力は、「既存の知識にとらわれず、自分の頭で考えられる力や、自分なりの切り口で問題を探究できる力」のこと。
もっと簡単にいうと、子どもたちが自ら考えたり、自分自身の判断で行動したり、自分の考えを相手に伝えられることです。
なぜ、このように試験が変わるのかというと、AI(人工知能)が台頭する時代がやってくるからです。既に今でも、インターネットの出現により、世の中の大半のことは検索すればわかるようになっています。
そこで知識を頭の中に詰め込む必要がなくなりました。つまり、既存の学歴や偏差値教育など、旧態依然のやり方が通用しなくなるということです。
既存の勉強法では将来、AIに太刀打ちできない。となると、私たち人間に求められるのは、AIが苦手とする分野。これから成長が見込める新たな分野を開拓したり、今まで誰もやってこなかったアイディアを実現したりすることです。

「大学合格が人生の全盛期」な人を生んでしまう“誤った勉強法”(PHPオンライン衆知 2019.4.23)

茂木氏がこのように言うんですが、その新しい教育方法評価方法に課題山積なんです。
具体的には、これまでのセンター試験が廃止されたあとに、2020年度からはじまる「大学入学共通テスト」のことです。

AIの時代が到来するという予想は良しとしましょう。
でも、AIが苦手とする「これから成長が見込める新たな分野を開拓したり、今まで誰もやってこなかったアイディアを実現したりすること」をどうやって評価しようというのか。

AIが苦手とする問題を受験させ、それをAIが評価する時代

上記の記事が掲載された同日、こんな記事もアップされていました。
※引用文中の改行・太字化は筆者による。

2019年4月4日、大学入試改革に取り組む大学入試センターは、「センター試験」の後継制度として2020年度から始まる「大学入学共通テスト」の2回目のプレテスト(本番を見据えて実験的に行うテスト)の結果を発表した。
特に「国語」「数学」の記述問題に関する課題は山積みで、教育現場からは不安の声も多い。それに対し、改革を推進しなければいけない立場の関係者からは、苦し紛れの”珍発言”が相次いだ。
(中略)
4月5日の朝日新聞には、中央教育審議会長として高大接続改革の議論を主導した安西祐一郎氏が
正答率が低いのであれば、それは問題が不適切だからではなく教育改革が進んでいないからだ」
「受験生のほとんどが0点であっても問題を変えず、解けるようになるよう、授業を変えることを目指すべきだと思う」
などと強弁し、学習者おきざりの制度改革観を露呈した。
記述式問題の自己採点が実際の得点と不一致を起こす問題については、大学入試センターの大杉住子前審議役が
「自己採点自体が、思考力・判断力が必要な作業だ」
とコメント。
それが十分にある受験生なら、せいぜい100字程度の記述式問題などわざわざ解かせなくてもいいはずだ。
「自己採点制度自体に無理がある」という苦しい本音が垣間見える。
いずれの発言も、「制度の不備」を「他人のせい」にすり替える論理が共通している。

センター試験の「後釜」に不安が募りすぎる理由(東洋経済オンライン 2019.4.23)

さらに恐ろしい状況は、その採点方法です。
全国各地の莫大な量の記述問題を、一体どうやって採点するのか?
それについても記事で触れられています。

また、今回のプレテストでは、採点基準の共有に、予想以上の時間がかかった。
理由について、大杉前審議役は「基準の確定が遅れたため、採点者が理解する時間が不十分だった」と説明している。
採点はかねて「専門の業者が行う」ことになっており、今回は通信教育のベネッセが請け負ったが、実際の採点作業をしたのは、約2000人の大学生および大学院生だった。
要するに学生アルバイトである。
入試本番では約1万人の体制で採点に臨むと考えられている。
公平な採点を実現するためには、採点基準を極限まで明確化し、機械的に作業を行う必要がさらに高まる。
私は、2018年10月に発刊した拙著『受験と進学の新常識』(新潮新書)の中で、某私立中高一貫校校長のコメントを含めて以下のように指摘した。
「記述式の採点は専門の業者が行うというが、いくら専門の業者でも、50万人分の答案を採点できるほど専門の職員がいるとは思えない。実際は大量のアルバイトに採点させることになるのではないか」。
結局は素人に機械的に採点させるのなら、記述式問題を出す意味があるのかという、もっともな疑問だ。図星であったといえる。
素人に機械的に採点させるのであれば、むしろAI(人工知能)に採点させたほうがいいのではないかという話にもなりかねない。
巷では「AIにはできないことができる人間を、これからは育てなければいけない」といわれているにもかかわらず、AIに認められる人間かどうかが大学入試合否の基準となり、そのための授業が高校で行われるようになるのだとすれば、大いなる矛盾である。

センター試験の「後釜」に不安が募りすぎる理由(東洋経済オンライン 2019.4.23)

前述の茂木健一郎氏の話とも総合すれば、この「「大学入学共通テスト」というのは、

AIが苦手とする問題を受験者に回答させ、AIにそれを評価させる

という奇妙奇天烈摩訶不思議な事態を招きかねません。

むしろ私は、大学受験なんてAIに判断させればいいとも思っています。
なんなら「くじ引き」で決めていい。
これは突飛なアイデアではありません。まじめに提唱している学者の方もいます。
その件については今回は割愛しますが、興味のある方は以下をどうぞ。

東大生の一割しか、本当の思考力を身につけられていない

茂木健一郎氏によると、これからの大学では「本当の思考力」を身につける必要があるそうです。
しかし、その「本当の思考力」はこれまでの「センター試験型の入試」では評価できておらず、それを大学で身につけられている学生はほとんどいないと述べます。
※引用文中の改行・太字化は筆者による。

僕の実感からいくと、日本で一番「頭がいい」と思われているであろう東大生でも、「本当の思考力」を身につけられている学生は、一割くらいです。
知識が問われる受験勉強は得意でも、自ら問いを立て、思考する力を持っている学生は驚くほど少ない。
これからの時代は、AIにできない仕事をすることが大切です。
新しいアイディアを思いつく思考力、それを形にできる判断力や独創性に富んだ表現力。つまりクリエイティビティこそが、新しい時代に求められる資質なのです。

「大学合格が人生の全盛期」な人を生んでしまう“誤った勉強法”(PHPオンライン衆知 2019.4.23)

でもちょっと待ってほしい。
そうした「本当の思考力」は、大学で身につけたり評価するものであって、入試とは関係ないのでは?
よしんば入試と関係があったとして、現状、「東大生の1割しか身についていない、次の時代に必要な本当の思考力」を、わざわざ東京大学に集めて身につけさせる必要があるのでしょうか?

私はべつに茂木健一郎氏を批判しているわけではありません。良いことを述べていると思います。
問題にしたいのは、その解決法です。

仮にセンター試験型入試が「本当の思考力」を評価できておらず、それを基に勝ち上がってきた「東大生」に「本当の思考力」が身についていないというのなら、早急に取り組まなければならないのは、
「本当の思考力を持った高校生を探す」ことではなく、

入学してきた大学生に、本当の思考力を身につけさせられる大学の教育体制

ではないのでしょうか?

それと関連しそうな話題を、先日記事にしたところです。こちらをどうぞ。
難関・有名大学を卒業しても、その学生の将来は遺伝で決まる|行動遺伝学が突きつける残酷な真実


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