時計じかけのオレンジ(1972年)

映画

ジャンル:政治学系ドラマ、倫理学系ドラマ
監督:スタンリー・キューブリック
主演:マルコム・マクダウェル

見どころ

突拍子もないシーンが繰り広げられますが、これは「狂ったディストピアの世界」を映像化しているのです。
ディストピアというのは、ユートピアの逆。

19世紀頃、世界は科学技術と工学の発達により、
人々の生活は目覚ましく進歩している実感がありました。
このことから、「このまま進歩すれば、未来は明るくなる」
というユートピアが実現するのではないかと期待されていたんです。

しかし、科学の進歩は必ずしも人々の生活を豊かにするだけではありませんでした。
科学技術に支配される人間。
産業廃棄物による汚染。
行き過ぎた合理的思考による倫理・道徳の荒廃。
科学の進歩の先にあるのは「ユートピア(理想郷)」ではなく、「ディストピア(暗黒卿)」ではないか?
そうした思想的背景が、この映画や原作にはあります。

また、この映画は1972年に公開(アメリカでは1971年公開)されたものであることを考慮しておく必要があります。
1971年の人たちが考える「未来」は、現在の私たちが考える未来イメージとは一致しません。
例えば、本作の監督であるスタンリー・キューブリックが撮った名作映画に、
「2001年宇宙の旅」がありますが、実際の2001年はあのような未来ではありませんでした。

突拍子もない映像ばかりなので理解が難しくなってしまいますが、要するに、
1960年頃に生きてきた人々にとって「一般的」だと認識する世界と比べて、
「合理的・科学的に価値判断する社会」
「自由の価値を優先する社会」
「管理統制された社会」
といった要素が強くなった、架空の未来(イギリス)を舞台にしているのです。

主人公のアレックス(マルコム・マクダウェル)は、自由を謳歌する青年でした。
1960年代の世界の人々にとっては、アレックスの姿は極めて異常に映ります。
こんな人間はいない、いくら未来でも、これは異常過ぎるだろう、と。
ですが、現代社会に生きる我々にとっては「こういうパリピなバカっているよね」という感じです。
その先見性がスタンリー・キューブリックの凄さと言えます。

犯罪抑止を訴える政治家のシーンも圧巻です。
科学技術による洗脳によって「犯罪を犯せなくなった人間(アレックス)」を作り出したことに対し、刑務所司祭はこう糾弾します。
「もともと犯罪を犯する選択を奪っているのなら、それは道徳的な人間とは言えないではないか」と。
つまり、善き行いとは、悪しき行いができるのに、それでもそちらを選択しないからこそ尊いのだということです。
しかし、政治家はこのように答えます。
「我々の目的は犯罪抑圧です。刑務所の過密状態の改善なのです。(問題があるように見えるけど)要はうまくいったって事」と。
まさに、現代政治のスタンダードとなりつつある「合理的・科学的に価値判断を下す社会」を描いています。

そんな世界で、人間はどのような姿を晒すのか。
より良い社会の実現を考える授業を受ける上で、目を通しておくとよい映画の一本です。

名言

完璧に治ったね。

コメント

タイトルとURLをコピーしました