ジャンル:障害者福祉系アドベンチャー、西部開拓時代系ドラマ、婚活ウエスタン
監督:トミー・リー・ジョーンズ
主演:ヒラリー・スワンク、トミー・リー・ジョーンズ
見どころ
巷では「納得がいかない」「救いがない」「よく分からない」というレビューの多い、
西部開拓時代を描いた、実は硬派な傑作映画です。
これは西部開拓時代のアメリカの現状をドラマにした作品です。
ポスター写真やDVDのジャケットに、
ライフルを持ったトミー・リー・ジョーンズがいるからといって、
ドンパチ・アクションの西部劇が展開されるわけではありません。
映画紹介のコピーも間違っています。
「女と悪党、命をかけた冒険の旅。」
となっていますが、全然違います。
これは大衆向け映画ではありません。
2018年に日本の「万引き家族」が受賞したカンヌ映画祭の、
「パルム・ドール」にもノミネートされた、
ある程度の知能と教養が必要になってくる映画です。
なので、大学生にはオススメします。
この映画の主題は、西部開拓時代のアメリカ人がおかれていた現実。
そのなかでも、アメリカの男女が持っていた希望や理想が潰れていく様を描いています。
映画は、精神病を患った女性3名を、ネブラスカから遠く離れたアイオワの教会まで護送するというもの。
当時、精神病の患者は教会が引き取っていました。
精神病患者に対する理解が進んだのは、日本でもここ最近のこと。
現在の大学生には信じられないかもしれませんが、
ごく最近まで、精神病患者には強烈な差別がありました。
西部開拓時代のアメリカでは尚の事です。
主人公の一人は31歳独身女性のメアリー(ヒラリー・スワンク)です。
実は、当時の西部開拓における「女性」とは、
女であるという理由でチヤホヤされた、かなり重宝される存在でした。
西部には女性がとても少なく、男女比率に大きな差があったのです。
なので、結婚できない男性が非常に多かったようですね。
ところが、メアリーは周囲の男性から「ブス」として結婚の対象から外れていました。
演じるヒラリー・スワンクも、決して美形とは言えない女優ですが、
物語上の実際の設定としては、相当なブサイクなのでしょう。
実際、劇中に出てくるメアリー意中の男性はこう言います。
「妻は東部に行って探す」と。
女性が貴重で、結婚したくてもできない男性が多い中、
それでも「こんな女とは結婚したくない」と言われるのですから。
そんなメアリーの心中はいかほどか。
顔もブス、性格もブスと言われるなか、
メアリーは「善き行い」をすることで事態を挽回しようとします。
「これは神が私に与えた善業だ。」
メアリーにとって、この精神病の女たちを護送する仕事は、
女の幸せを得られない自分に課した、最後の拠り所なのです。
このあたりの事情が分かっていないと、メアリーの行動が意味不明に映ります。
メアリーは奉仕と慈愛の心から護送を名乗り出たのではありません。
実際、出発当初には、大声を上げ続ける精神病患者を怒鳴りつけ、自分も泣き崩れます。
それに対し、同行する「悪党」ブリッグス(トミー・リー・ジョーンズ)は、
ひたすら現実的で常識的な判断をとります。
それが、西部開拓時代における男性がとるべき行動だったのです。
逆に言えば、彼のように「成り行きで一発当てる」アメリカンドリームを夢見るのも
当日のアメリカ人男性の特徴だとも言えます。
しかし、それで成功する者はほんの僅か。
だから、彼は映画のラストで出会った女性にあんな言葉をかけるのです。
西部開拓は、男にとって決して良いものではなかったし、
その地に赴く女にとっても、幸せを生むものではありませんでした。
ある意味で、アメリカの暗黒時代と言えます。
この映画のクライマックスとラストは、そんな西部開拓時代の悲哀を表現しています。
メアリーが最後にあのような行動をとったのも、上記の理由で理解できるでしょう。
彼女にとって、この世界(西部)は絶望でしかないのです。
一方、ブリッグスに訪れた格好悪い結末も、まさに当時の西部の現実です。
それでも、格好つけて生きていくのがアメリカの男。
というよりも、吹っ切れて踊るくらいじゃないと、やってられない。
そうした環境が、現在にまで通じるアメリカ人の気質を形成したのかもしれません。
厳しいアメリカ中西部の自然を背景に、
アメリカ文化がどのように育まれたのか知ることができる映画といえます。
名言
君にアドバイスがある。西部で一攫千金を狙うような男と結婚せず、この地にとどまった方がいい。
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